第5回 佐藤 千賀子の編集制作レポ 「原書よりも読者に寄り添って」

hnyk_D05_h1 『〈幸運と偶然がたちまち訪れる〉

 

 

 

 人生で大切な「気づき」の法則』

ジョー・ヴィターリ 著
日本実業出版社 発行。

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米国で刊行された原書の表紙。
日本語版とはかなりイメージの違う装丁です。

 

  ■レポート:佐藤千賀子(さとう ちかこ)

 

 
 文芸作品の翻訳出版は、限りなく原文と原著者に寄り添うようにして進めていくのですが、ノンフィクションの場合は必ずしもそうはいきません。欧米のノンフィクションは日本の読者向けに書かれたわけではありません。テーマにもよりますが、文化や生活様式の異なる国のことばで書かれたものを、日本語に訳しただけで理解してもらえることは少ない。したがって、日本語版の編集担当者は原書ではなく想定読者に寄り添う気持ちで、とにかく懇切丁寧に、分かりやすく仕上げるよう心がけます。

 

 

 2008年11月に発行されたヴィターリ博士の“人生の取扱説明書”、『人生で大切な「気づき」の法則』(日本実業出版社 刊)も、そんな編集者の手腕が試される1冊でした。

 本書はヴィターリ博士の考えをそのまま書いた文と、さまざまなジャンルの著名人十数人が寄稿した文から構成されています。その並べ方にあまり方向性が感じられなかったので、日本語版は大胆に順番を変えました。原書にはない「旅立ち」「夢」「絆」といったテーマ見出しもつけました。
誌面2
 詩のような文章あり、論説調の文章あり、長文の経験談ありの本書。それぞれの文章のテイストに合わせ、イメージ写真などでデザインに変化をつけました。
誌面3
 これは寄稿文のページ。セピア色の写真や模様を地紋にしたフレームをつけ、ヴィターリ博士が執筆したページと見分けやすくしました。

 日本語版だけを手に取った読者が、こうした変更点に気づくことはおそらくないでしょう。気づかれないということは、すなわち、自然で美しい本に仕上がっていること。編集者、DTP制作者はそれを喜ぶべきかもしれません。編集の段階で思い切ってカットした寄稿文もあり、すべて訳してくれた小笠原由美子さんの労力を思うと、心苦しい限り。しかし、訳文あってこその編集作業です。最終的に読者に優しい本となったことに免じて、お許しいただけるのではないでしょうか。

 また、小笠原さんが師事する翻訳家・亀井よし子先生には、訳文全体に目を通していただき、大変お世話になりました。この場を借りて心よりお礼を申し上げます。

 

ごあいさつ
 2008年の流行語大賞は、出版には縁のないものばかり。アラフォー世代に向けての刊行が堅調だったわけでもなく、業界全体が「グッググー」な展開だったとも言えない。漢字一文字で表わされる世相も、明るい文字になるとは考えにくい。こんな一年でしたが、リリーフ・システムズの翻訳出版部は、間断なくお仕事をいただき、実績を残すことができたように思います。2009年も、どうぞよろしくお願いいたします。
佐藤千賀子
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