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■ 分解とは創造すること  
写真集『分解してみました』の魅力を分解してみた  
翻訳家 金成希   

 自分から言うのもどうかと思うものの、この『分解してみました』は大層な評判になっています。何しろあるインターネット書店では、発売もされない前からランキングの上位を占め、発売日が来るのと同時に、一時的に売り切れになるというありさまでした。もっともこれは、中身を見たから、あるいは見た人の話を聞いたから評判になったわけではないので、決して、翻訳者の文章が評価されたことを意味してはいないのです。

 それにしても、「分解」という言葉にはどこかしら危険な雰囲気が漂います。このおもちゃは、ラジオは、自動車は、中身はどんな仕組みになっているのだろうか。最初はふとした思いつきであったものが、そのうちにのっぴきならない状況へと追い込まれる。ソッロッツォを亡き者にしようと拳銃を手にとるマイケル・コルレオーネの気分です。こいつを撃たなければ。だが、俺に撃てるのか。心はグレーゾーンで揺れ動く。それでもやはり、マイケルは引き金をひく。それと同じように、後で親からこっぴどく叱られるかもしれないのに、結局は好奇心には勝てずに、目の前にあるものを分解するようになるわけです。

 原著者であるトッド・マクレランも、昔から好奇心旺盛なところがあったそうです。おもちゃを破壊し、高校生の時には、自動車を部品の一つ一つに至るまで解体した。そしてプロフェッショナルの写真家となった今、デザインの代表作とも言える50種類の製品を解体し、その部品を写真に収めるという前代未聞のアイディアに到達したのです。原著者は、この本を通じて「ものの見方を発見するための訓練」をしたようなものだと言っています。ものを分解することで、その新旧のデザインにこめられた、発案者や設計者や製作者の思いを一つずつたどっていくという作業は、まさしく自分以外の誰かのものの見方を追体験する過程であると言えそうです。

 原著者のほかに、分解と修理に関する情報サイトの設立者、子どもを対象とした「工作の学校」の主宰者、陶磁器などの美術品修復家、製品がひとりでに分解する技術の発案者という人たちが、この本のために文章を寄せています。もちろんこの5人は、「分解」をキーワードとしてつながっているわけですが、その背景には必ず「創造」が意識されているように思われました。分解されるものは人間の創造力の結集である。そして、分解という行為だけで完結するのではなく、直してまた使ったり、別のものに作り替えたりして、新たな意味を創造しなければならない。してみると、ものを分解して大人から叱られた経験のある人は、そこまで慮って作業にとりかかっていれば、いらない説教をされずにすんだかもしれません。

 そういう話まで読んでもらえると、翻訳者としてはうれしいことなのですが、やはり分解されたさまざまな製品の写真の魅力にはどうにも太刀打ちできません。ちなみに、翻訳者のお気に入りはまずタイプライター。キーからアームにつながる仕組み、載っている写真で言うと、左側にずらりと並んだ金属製の部品には、誰がどうやってこんな形を思いついたのだろうと感心させられます。 そしてアコーディオン。こちらは、何組もの、互いによく似た部品の群が縦横にまっすぐに並べられ、その整然たる美しさに魅了されました。原著者の前書きにもありますが、これだけの写真を撮影するために、製品を分解して並べる作業に少なくとも3日間。さらにあの衝撃的な、上から部品をばらまいた写真も撮影される。そういう苦労を思うと、なおさら一つ一つの写真に対する興味が高まってきます。また、工作の学校の主宰者は、この学校が注目されているのは、大人になると、機械の中身を見たいがためにまる2日も費やすことができなくなるからだと語っています。それと同じため息をついている人も、この写真集を開くことで、いくらかでも慰められるというものでしょう。

表紙

タイプライターの分解写真


スマートフォンの分解写真


「自訳自解」とは
分が詠んだ俳分で釈する「自句自解」になぞらえた言葉で、俳人でもある翻訳家・金成希氏による造語。翻訳家が分の書・文・語について分で説する、の意。