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第6回 満園 真木さん「同性・同世代だからわかること」
 
翻訳家・満園真木(みつぞの まき)さん

翻訳者。主な訳書に『こだわりの万年筆』、『こだわりのシガー』(ともにネコ・パブリッシング刊)など。

『1日5分!

忙しすぎる毎日から抜け出す習慣術』

ヴァロリー・バートン 著
満園真木 訳 小室淑恵 監修
日本実業出版社 発行


ライフスタイルをテーマにした書籍では、著者と訳者、そして対象読者層の年齢が近いことに意味があるようです。『1日5分! 忙しすぎる毎日から抜け出す習慣術』は、まさしくそのケース。翻訳者の満園さん、編集とDTPを担当した渋谷友彦(リリーフ・システムズ)を迎えて、日本語版完成までの紆余曲折を語ってもらいました。
■インタビュー:佐藤千賀子(さとう ちかこ)

 


 その他のインタビュー

 

 インタビュー

佐藤  これは、「忙しすぎるライフスタイルを改善しよう」と提案する米国発の本ですが、訳していて「日本人の感覚に合わないんじゃないか?」と感じるような部分はありましたか?
満園  生活習慣に関する話では日本の習慣に置き換えて訳した部分もあります。表現については、渋谷さんから「同年代の女性に語りかけるつもりで」というご指示がありましたので、自分が違和感を覚えない言葉を使うように心がけました。
佐藤  同年代と言うと、30代……?
満園  30代前半の仕事を持つ女性ですね。家庭はあったり、なかったり。ちなみに著者のバートンさんと日本語版監修者の小室さんは私より1つ年下で、まさに同年代なんです。
渋谷  実は、原書を見つけてきた日本実業出版社の編集者、Mさんもそのくらいです。
佐藤  ほぼ同い年の女性4人が、同じ世代の読者のために作った本というわけですね。ただ1人その範疇に入らない渋谷さんは、その読者層に対して何か特別なイメージを持っていました?
渋谷  実を言うと、この本、僕にはあまりピンと来ない内容だったんです。著者の実体験に基づく改善策だから説得力はあるんですが、僕が個人的に知っている30代の女性で、ここまで忙しがっている人は1人もいませんのでね。で、Mさんに「実際こんな人、いませんよね?」と言ったら、「渋谷さんの回りにはいないかもしれないけど、こんな風にしんどい思いしてる人、いっぱいいるんですよ」って。ええっ? そういうものか……! と驚きました。
佐藤  キャリア志向が強すぎて、しんどい思いをしている?
渋谷  自分で自分を忙しくして、そこから抜けられなくて悩んでいる……そんな女の人が「世の中にたくさんいるんだ」と聞いて、見方を変えることにしました。そうでなかったら、僕もっと大幅に原文から書き換えていたと思うんです。「このままだと、日本ではちょっとキツイな」と感じたので。でも、Mさんが「このままでも、ちゃんと売れる本なんだ」と言うので、心を入れ替えたんです。実際、増刷を重ねていますから、彼女の眼力は大したものだと思います。
満園  そうだったんですか。私は、渋谷さんのその反応が意外なくらいです。私自身、「やらなきゃいけないことで頭がいっぱい」という状態を経験したこともありますし、読んでいて「すごく、わかる」と思う内容がたくさんあったので。
佐藤  そこは、やはり男性と女性の違いでしょうかね。「ワーク・ライフバランス」という言葉を聞くようになったのは、ここ数年のことですが、そちらはむしろ男性を中心とした話ですよね。企業が社員に対し「男も育児休暇を取りなさい」、「ボランティア活動もしなさい」と奨励するような。だとしたら、本書は男性が読んでも面白いのではないかしら?
満園  本当はそうであってほしいんですが、やはりワーク・ライフバランスの問題は女性にとってより切実だという気がします。男性の場合、仕事に打ち込むことは、とりあえず“美談”になりますよね。でも女性がキャリアに夢中で、ほかのことをおろそかにしていると、かなりの確率でネガティブなことを言われます。「あの子、仕事ばかりして……」って。特に日本では、その傾向が強いですよね。だから、電車もないような時間まで働いても、必ずタクシーで家に帰り、お風呂に入って、翌朝ちゃんとお化粧してまた出かけていく。一生懸命仕事しているのだから仕方ないのに、「部屋が散らかっている……」と落ち込んだり、真面目な人ほど自分を追い詰めてしまうんですね。「ホントにそのうち倒れるよ」って心配になる人、友だちにもいます。渋谷さんの回りにいないと言うより、いたとしても、内面的なことだから、そう見えていないだけかもしれませんよ。
渋谷  そうなんだ……。僕もまだまだ人生経験が足りませんね。
満園  佐藤さんがおっしゃるように、確かに女性だからわかる感覚かもしれないです。この本の原書も、例えば「夫」ではなく必ず「配偶者」と表現していたり、女性読者に限定しない作り方をしているのですが、基本的には女性に向けた本だという感じがします。アメリカでもいまだに日本と似たような状況はあるんだな、と思いました。特に子育てなどは、どうしても女性ががんばるしかない部分が多いので。
渋谷  本書の日本語版もね、最終的には男性ビジネスマンにも読んでもらえる本にしたんですよ。各ページの見出しなど、最初はもう少し女性向けの表現だったのを、男性にも抵抗がないものに書き変えたといういきさつがあります。そもそも原書がMさんの眼鏡にかなったのは、「適度に硬いところがあるから」らしいんですね。この種の本は、あまり軟らかすぎると読者を馬鹿にしたようなレベルの本になるので、適度に硬い内容を編集で軟らかく見せる工夫をしたら、ちょうどいいのかなと。
佐藤  なるほど。日本語版はすごく優しいトーンに仕上ってますものね。かなりの文章量なのに威圧感がないのは、文字色と書体のせいでしょうか。目が癒される感じ。これなら、疲れている人も読もうという気になりますね。
渋谷  こういう本は、なるべく白っぽい印象がいいんです。文字色は、目次までを緑色、本文の前半を赤、後半を青にしてあります。そのように区切り良くページ数を合わせるのに、どれだけ苦労したことか。だって絶対的に原文のほうが長いんです。そのうえ、改行を増やすは、1行開きを入れるは、見出しやイラストを加えるはで、軽く2~3ページははみ出しちゃいます。「各ページに必ずイラストか見出しを入れよう」なんてことを考えたので、自分で自分の首を絞める結果となりました。
佐藤  目に優しいのは、漢字が多すぎないせいもあるかしら。その辺は翻訳の段階から意図的に?
満園  出版翻訳は昔に比べて、ひらがな表記にする(「開く」)パターンが増えていると聞くので、この本はさらに漢字を減らしてもいいかなと思い、かなり意識して開きました。でも、渋谷さん、さらに開いていますよね?
渋谷 「普通、これは閉じるだろ」って思うところも、満園さんが開きまくっていたので、それに準拠していったら、こうなりました。
満園  日本語版は渋谷さんが改行を多くしたおかげで、すごく読みやすいんです。原書は1パラグラフがものすごく長くて、それを私、そのまま原稿にしたんですけど、「配慮が足りなかったな」と、完成した本を見て反省しました。
渋谷  翻訳者は原書をきちんと訳すことが仕事だから、それで十分なんですが、もしも「あなたの好きなように料理していいよ」って言われたら、改行入れたり、見出し立てたり、箇条書きにしたり……そういうことまで考えていったら、いい訳者になれるよ。
佐藤  編集者と翻訳者として、息がぴったりのお2人ですが、それと言うのも、元々この会社の先輩・後輩という間柄だったのですよね。リリーフには何年ぐらい勤めていたんでしたっけ?
満園  約5年です。
佐藤  この会社で、翻訳という仕事に出合ったという風にお聞きしましたが。
満園  そうです。本当に、リリーフがすべての始まりだったという感じです。新卒で入った会社を2年ぐらいで辞めて、約1年ハワイに行っていたのですが、帰国後「どうせなら英語を使える仕事がしたいな」ぐらいの気持ちで職を探していたんです。その頃リリーフが翻訳チェッカーを募集していたので、面白そうだなと思い、入社テストを受けたんです。面接のとき、社長の森井さんに「翻訳もやりたいの?」と聞かれて、「はい、興味はあります」なんて答えたら、「今ね、TOEICやTOEFLの問題集を作っていて、問題文の訳例を作る人、探しているので、やらない?」っておっしゃるんですよ。当時、私には何の実績もなかったのに。
佐藤  満園さんは、TOEICのスコアがすごく高かったそうだから。
満園  でも、だからと言って、翻訳ができるとは限らないですよね。その仕事は変に意訳するより「この単語はこう訳した」と読者にはっきりわかる逐語訳のほうがいいという話だったので、未経験の私でもできたのだとは思いますが、それにしても、任せるほうにとってはすごい冒険だと、今になって思います。それこそ、森井社長は翻訳の難しさをよく知っている方ですから。とにかく、いきなり翻訳を経験させていただき、その後、渋谷さんの下で翻訳チェックの仕事を。
渋谷  当時は、飛行機や軍事関係の雑誌の日本語版を編集・制作していまして。翻訳は外注だったのですが、その翻訳原稿を満園さんがチェックしていたんです。おかしなところをリライトしたりしているうちに、彼女、自分で訳せるようになってしまったわけですよ。で、翻訳者が足りないときに、ピンチヒッターをやってもらったりして。その訳文がね、非常に素晴らしかったんです。
満園  おこがましいようですけど、チェックをしながら「……自分のほうがうまくできるんじゃないかな」と思う瞬間が結構あったんです。それで、もう少し真面目に翻訳を勉強しようかな、と。2005年にリリーフを辞めてからは、別の会社で実務翻訳者をやっていたんですけれど、そのかたわら今回のように書籍の翻訳で渋谷さんにお世話になる機会が何度かあり……。
渋谷  万年筆の本、シガーの本、軽めのビジネス書と実績を重ねていき、今回に至る、と。
佐藤  そして今、さらに別のジャンルの翻訳を勉強なさっているんですよね。
満園  いつかはミステリー小説を翻訳したいと思っているので、翻訳学校の講座に通っています。特に好きなのは、ハードボイルドやノアール(暗黒小説)というジャンルで、ただ「犯人は誰だ?」という話ではなく、犯罪を犯す人の心理を描いたような、ちょっと暗い作品に興味があります。ミステリーはある程度、市場があるので、何か縁があればいいなと思っているのですが。
佐藤  日本で暮らしながら、英語の感覚を忘れないために、日々心がけていることは何かあります?
満園  単純なことですが、とにかく英語の文章をたくさん読むことですね。この7~8年、仕事を通じて毎日英文を読んでいるので、英語のニュアンスのようなものは、ある程度覚えていきます。辞書で学んだ知識ではなく、「この単語はこういう場所で使われる」という知識がどんどん蓄積されていると思います。でも、小説の場合は、実用書や会社向けの書類と違って、ものすごく語彙の範囲が広いので、たくさん辞書を引くことになりますね。本当に知らない単語がいっぱい出てきますので。
佐藤  翻訳者は、それを読みやすい日本語で表現するという、大変な仕事を要求されるわけですけれど。
満園  自分では「日本語を書くことが好き」という意識はそんなになくて、たぶん英語を日本語に置き換える作業の“職人的な”部分が好きなんだろうと思うんです。どこをどう工夫すると、いい訳文になるのかなって考えることが。
佐藤  ああ、それがよかったのかも……! 翻訳者って、絶対、職人さんだもの。
満園  その意味では、今回のような実用書も面白いです。はっきりテーマがあって、読者層を想定しやすいし、なるべくそのテーマに添った文章にしようとするのが楽しかったりするので。
佐藤  さて、これから小説の翻訳へとキャリアをつなげていくにはどうしようか?ということですが、何か具体的なお考えはあります?
満園  キャリアについては、あまり具体的にイメージしないほうなのですが、まあ、強いて言うなら、去年の春に独立したことが、ひとつの転機だったかもしれません。実務翻訳は続けているのですが、フリーになることによって、とにかく「言いわけできない環境」を作りたかったんです。フルタイムで働いていると、出版翻訳のチャンスが来ても納期の問題で受けられなかったり、受けたとしても時間が足りないせいで残念に思うことがどうしてもあるんですね。だから、次に書籍の話をいただくときには、「かけもちだから」という言いわけができない状態にしておこうと思ったんです。今は一介の“翻訳者”ですけれど、独立したことが“翻訳家”に向けての第一歩だと、ちょっとだけ意識した気がします。
佐藤  そんな満園さんに対して、渋谷さん、最後に一言。一緒に仕事をしてきた仲間としてのアドバイスを。
渋谷  いや、満園さんには特に何も言うことないですよ。編集する側にとっては一番楽な人なんですね。絶対信頼できると言うかね。あとから編集者が困るようなところは、必ずよく考えて、自分なりに最良の訳を出してくれるから。「よく考えた結果、仕方なくこうしたんだな」ということが訳文から伝わってくるんです。あとは、「こう訳してきたか。参った!」と編集者を唸らすような表現が時々あると、いいかな。例えば、コラムの見出しのように「原文のままでは面白くないから言い換えなきゃ」というところで、キラッと光るボキャブラリを見せてくれるとね。
満園  自分が気になったところは、よく考えるんですよ。「何か、これ、ヤダな」と思ったら、すごく考えるんですけど、引っかからないと、そのまま訳してしまうんですよね。要するに、引っかかるか、引っかからないか――気になるか、気にならないかが、キラッと光る訳を出すために一番大事なことなのではないかなと、今思いました。次はがんばります。

 

インタビューを終えて
翻訳者にとって、表紙や背表紙に自分の名前の印刷された本が書店に並ぶことは、ひとつの到達目標だと思います。もちろん、運やタイミングはあるでしょう。でも、目の前にある仕事で力をつけ、身近な仕事仲間の信頼を得た人には必ずチャンスがやってくる――満園さんとお話して、そんな風に勇気づけられました。
佐藤千賀子
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