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第11回 山北 めぐみさん「読んで聞かせて、返ってくるもの」
 

翻訳家・山北めぐみさん

 主な訳書に『アニメおさるのジョージ ストーリー絵本』シリーズ(金の星社)、『ハリウッド・スーパーナチュラル:映画スターと超自然現象』(扶桑社)、『籠ノナカ』(ロッティ・モガー著/ヴィレッジブックス)など。共訳書に『最強動物をさがせ』シリーズ(ゆまに書房)、『なんでもきいて! まるごとビジュアル大百科』(日東書院)など。

 




 人気アニメのストーリー絵本シリーズなど、児童向けの翻訳で活躍中の山北めぐみさん。子育てを優先している間に翻訳バブルの時代が去り、いろいろなチャンスを逃がしてしまった…と、ご本人はおっしゃいますが、お話のはしばしから「子育て」と「翻訳」の相乗効果が伝わってきます。

■インタビュー:佐藤千賀子(さとう ちかこ) ■テキスト:川上 洋子(かわかみ ようこ)

 


 その他のインタビュー

 

 インタビュー

佐藤  『おさるのジョージ』のアニメはNHK Eテレで放映されていて、小さい子にとても人気があるようですね。絵本は何冊出ているんですか?
山北  今、32巻になります。
佐藤  亀井よし子先生がね、「絵本の翻訳がいちばん難しい」とおっしゃっていたんですよ。
山北  いや、でも、亀井先生の訳した絵本は素晴らしいですよ。『空のおくりもの―雲をつむぐ少年のお話』(ブロンズ新社)など、大好きです。
佐藤  そう、そのとおりなんですけれど、「本当に難しい…」としみじみ言われていました。文字数が少なくて、子ども向けの英語だから、簡単そうに見えるかもしれないけど、それは大間違いだ、と。翻訳勉強中の人が「児童書や絵本ならできそう」なんて言うのを聞くと、その道の専門家はカチーンとくるそうです。絵本を訳すには詩人の感性が不可欠で、その点、大学で詩を専攻していた山北さんは、もともと詩心があるから向いているのではないか…とおっしゃっていました。
山北  確かに、量をたくさん訳すよりは、短い文章をしつこく推敲するほうが向いているかもしれません。『おさるのジョージ』も、訳したあとの見直しに時間がかかります。文のリズムの問題とか、同じ語尾が続いていないかとか、ちょっとした細かいことを担当編集者の方がていねいに指摘してくださるので、その共同作業がすごく楽しいですね。でも、私、絵本の翻訳を勉強したことは特にないんです。もちろん子どもがいたので、読むのは好きでしたけど。
佐藤  翻訳の仕事として、児童書はあまり視野に入っていなかった?
山北  もともとは大人向けの純文学作品を訳したくて、この世界に入りましたので。だから、以前リリーフからのお仕事で図鑑を何点か翻訳したことが、すごくいい経験になっているんです。子ども向けの言葉づかいとして、どういうところに気をつけるべきかわかったし、偶然にも『おさるのジョージ』の巻末に“やってみよう”という感じの工作コーナーがあるのですが、図鑑の文体を思い出したら、割とスムーズに表現できたんです。
佐藤  お仕事って、全然違う分野であっても、どこかで役に立つものですよね。
山北  いろいろなことがつながっているんですね。
佐藤  今お話に出た図鑑の『最強動物をさがせ』(ゆまに書房)は、お子さんの通う小学校で読み聞かせに使ってくださったでしょう?
山北  自分の子のクラスで読んだのですが、三年生だったから、とても食いつきがよくって、すっごく盛り上がりました。
佐藤  ストーリーものではなく、図鑑なのに、盛り上がった?
山北  毒の話を読んだらね、いちばん面白いって。男の子は、血とか毒とか大好きだから。子どもたちが実際に喜んでいる姿を見られたのはうれしかったですね。でも、五、六年生になると、なんの反応もなし、質問もなし、感想もなしで、しいんとしている感じでした。
佐藤  そうした後日談をゆまに書房さんにお伝えしたら、とても喜んでいただけたことを覚えています。読み聞かせでの体験は、翻訳の仕事にも反映されるものですか?
山北  音読したときのリズムが悪い部分や、読みづらかったところは「ああ、訳がよくなかったんだな」と思ったりしますね。
佐藤  児童書は読んで聞かせるための本でもあるから、耳から入る響きも大事であるということなんですね。その後、大人向けの小説も翻訳されていましたが。
山北  『籠ノナカ』(ロッティ・モガー著/ヴィレッジブックス)というミステリーなんですけど、ミステリー色はそれほど強くなくて、普通の小説に近いお話なので、これも楽しかったです。でも、初めて自分の名前で小説を訳すというので、すごく緊張しちゃって、最初は1ページ訳すのにかなり時間がかかりました。あのときは土日も関係なく1日中訳していて、夜寝る前にもふっと思い出して直したりして、夢中で訳していました。推敲にも時間がかかって、最後まで自信を持てなかったんですけど、編集者の方も結構気に入ってくださって、今にして思えば、いいものが残せたのではないかと思います。がんばってよかった…という感じです。
佐藤  小説を訳すときは、出版社から編集方針のようなものを伝えられるんですか?
山北  あの本については「翻訳ものの読者だけではなく、ふだん日本の小説しか読まない人にも売りたい」と言われました。私は、どちらかというと翻訳ものより日本の小説が好きなので、それはむしろありがたかったんです。翻訳教室などで、“翻訳の規則”みたいな感じで教えられることに対して、ちょっと個人的に疑問を持つこともあったので。
佐藤  疑問と言うと、具体的にはどんなことに?
山北  たとえば、「彼は」「彼女は」という代名詞は「極力使わないほうがいい」と教える講師の方もいらっしゃるのですが、私は——あくまで私は、なんですけど、原文の呼吸を生かすために、“He said.” をそのまま「彼は言った。」とするのもありじゃないかと思うんです。日本人の小説家も案外「彼は」を使っていますし、私は特に抵抗がないんですね。ですから、そういう教えよりは、自分が今まで読んできた日本の小説の語感を思い出しながら訳すようにしました。特に参考にしたのは、テーマも共通するところが多かった村上龍の『共生虫』です。
佐藤  最後に、これからの夢というか、目標は?
山北  ミステリーでもロマンスでもない、普通の文芸作品も普通に出版されるぐらい、翻訳市場が熟してくれるといいなと思います。私自身は、どうだろう…翻訳の勉強を始めた頃は、それこそヘミングウェイの作品を…などと、夢のようなことを考えていたのですが、最近は特に「目標」というものもなくなってしまって…。とにかく健康に気をつけて、「仕事ができて、ありがたい」という気持ちで、目の前の仕事をしっかりやる、ということですかね。いただいた仕事には、いつも本当に心を込めて取り組んでいますので、それが伝わるといいな、という感じです。

インタビューを終えて
 家事を優先して、急ぎの仕事を敬遠していた時代を「いろいろ甘かった」と振り返る山北さんですが、お子さんが小さい頃、「翻訳は無理でもリーディングの仕事なら」と、2年で20冊のシノプシスを書いたという実績は、なかなか真似できないこと。翻訳者の集まりなどでは、遠慮がちな若手のために話しやすい雰囲気を作ってくれる頼もしい方でもあります。そんなところも、恩師・亀井よし子さんのDNAを継いでいるのかな? などと思ったり。
佐藤千賀子